アメリカへの移住や長期滞在を考えるとき、特に小さなお子さんを連れての新生活では「どこが安全に暮らせるか」という点がとても気になるところですよね。
初めてアメリカに来る方にとって、地域ごとの治安や生活環境を知ることは安心につながります。しかし、アメリカは広大で、都市ごとに治安状況が大きく異なります。
この記事では、2025年の最新データをもとに、治安が悪いとされる都市のランキングをお伝えしますが、これは決して「アメリカ全体が危険」というわけではありません。実際に、全体的には安全な場所がたくさんあります。
治安の悪い都市には、経済的な背景や特定の地域に限られた問題があることも多いです。また、統計に出てくる数字は都市全体のものであり、特定のエリアが影響している場合もあります。記事を読む際は、そうした背景を考慮しながら、実際に住む場所を決める際には地域をよく調べ、足を運んで確認することをおすすめします。治安の悪い地域があっても、近隣には安全で安心して暮らせるエリアも多いので、ぜひ参考にしてみてください。
それでは、次に2025年の調査データをもとに、各都市の安全性について詳しく見ていきましょう。
調査データ
この統計を発表している団体や組織は以下の通りです。
- FBI(連邦捜査局)
FBIは毎年、Uniform Crime Reporting (UCR) プログラムを通じて、米国全体の犯罪データを集計しています。これには暴力犯罪と財産犯罪の詳細な統計が含まれており、多くのランキングや分析に使用されます。 - MoneyGeek
MoneyGeekは、FBIの犯罪データや他の信頼できるソースから得た情報を基に、「犯罪コスト」という経済的影響を評価し、最も安全な都市と最も危険な都市のランキングを作成しています。犯罪による社会的・経済的コスト(医療費、財産損失、精神的なケアのコストなど)を計算し、1人当たりの犯罪コストを基準にしています - NeighborhoodScout
NeighborhoodScoutは、FBIデータに基づいて独自の統計と地理的な情報を組み合わせ、全米の都市の安全性ランキングを作成しています。このプラットフォームは、特定の地域の犯罪データをもとにリスクを評価します。 - U.S. News & World Report
U.S. Newsも、治安や犯罪データに基づいて都市の安全性ランキングを提供しています。このランキングには、FBIの統計や独自の調査データが含まれます。
これらの組織は、犯罪データを分析し、社会的な影響を考慮して、ランキングを作成しています。それぞれ異なる視点や手法を採用していますが、主にFBIの統計データがベースとなっています。
統計の基準
この統計は、主に以下の基準を基に評価されています。
- 犯罪率
暴力犯罪率: 殺人、レイプ、強盗、加重暴行といった暴力犯罪が、都市の治安評価に大きな影響を与えます。これらのデータは、FBIや他の公的機関から報告される標準化された統計に基づいています。
財産犯罪率: 住居侵入、窃盗、自動車盗難など、財産に関連する犯罪も評価の対象となります。 - 犯罪による社会的コスト
犯罪が個人やコミュニティに与える経済的影響を「犯罪コスト」として計算します。これには、犯罪による物的損失や医療費、精神的なケアの必要性などが含まれます。
各都市の「1人当たりの犯罪コスト」を計算し、犯罪が地域社会に与える影響を金銭的に評価しています。 - 人口あたりの犯罪率
犯罪が都市の人口に対してどれだけ頻繁に発生しているかを評価し、人口10万人あたりの犯罪率を基準とします。都市の人口規模に応じて、犯罪の影響がどの程度大きいかを評価します。 - ソーシャルファクター
貧困率、教育水準、失業率などの社会経済的要因も、犯罪率との関連性を評価する際に考慮されています。犯罪率と所得の不平等の関係も調査されています
これらの要素を統合し、最も治安の悪い都市ランキングが作成されています。
最も治安の悪い都市TOP10
それでは最も治安の悪い都市を10位から順に発表していきます。
10位 カリフォルニア州 ストックトン
ストックトン(Stockton)は、サンホアキンカウンティに位置し、農業や物流の中心地として知られています。静岡市と国際姉妹都市協定を結んでいます。
人口:32万0804人(2020年)。アジア系住民は約15%。主にフィリピン系や中国系の住民が多いです。アジア系スーパーが点在しており、日本食材も入手可能です。
特徴:ストックトンはかつてカリフォルニアの農業の中心地として栄えましたが、経済格差が広がり、治安が悪化。特に財産犯罪が多く、強盗や車の窃盗も頻発しています。
危険な理由:特に財産犯罪と暴力犯罪の発生率が非常に高いです。2023年のデータによると、ストックトンの暴力犯罪率は、人口10万人あたり約1,500件で、カリフォルニア州内の他の多くの都市よりも高い水準にあります。殺人事件の件数も年々増加しており、2022年には約50件の殺人事件が報告されました。失業率の高さや貧困、薬物関連の犯罪が、犯罪増加の背景にあるとされています。
周辺には日本人にも名前の知れたオークランドという都市があります。オークランドは特にギャング関連の問題で知名度が高く、犯罪の規模や複雑さが目立つため、全体的にはオークランドの治安問題が報じられることが多いですが、ストックトンはオークランドよりも犯罪率が高いことで有名です。
9位 ウィスコンシン州 ミルウォーキー
ミルウォーキー(Milwaukee)は、ミルウォーキーカウンティに属するウィスコンシン州最大の都市。五大湖のミシガン湖沿いに位置しています。有名な企業としては、大型二輪車の大手メーカーであるハーレーダビッドソンの本社があります。
人口:57万7222人(2020年)。アジア系住民は約4%。ベトナム系や中国系が多く住んでいます。アジア系スーパーが多く、特にH Martなど日本食材を扱う店舗も存在します。
特徴:日本の札幌・ドイツのミュンヘンと並び、世界3大ビール生産地としても有名で、かつて日本のサッポロビールは、ビール造りの盛んな北緯43度線付近の都市として「ミュンヘン・札幌・ミルウォーキー」というキャッチコピーを使用していました。また、日本ではアニメ『あらいぐまラスカル』の舞台の1つとしても知られています。
危険な理由:ギャング関連の暴力や薬物犯罪が広がり、特定地域では治安が非常に悪化しているのが現状です。特に強盗、加重暴行、殺人が多発しており、2022年には約200件の殺人事件が発生しました。これらの犯罪の背景には、経済格差や失業率の高さが影響しており、市は治安改善に取り組んでいますが、未だに犯罪発生率は高いままです。
8位 アーカンソー州 リトルロック
リトルロック(Little Rock)は、アーカンソー州の州都であり、プラスキーカウンティに位置。州の中心地として政治や経済の要所です。
人口:20万2591人(2020年)。アジア系住民は約2.5%。少数ながら日本人も居住しています。アジア系スーパーも数店舗あります。
特徴:リトルロックは歴史的にも南部の文化や政治の中心地であり、多くの観光名所がありますが、特定地域では貧困と犯罪が問題視されています。リトルロックの治安はあまり良いほうではありません。特にパインブラフ市周辺の治安が悪く、モーガン・クイットノー社の「全米の危険な都市」ランキングでは1998年から2003年まで毎年ワースト1を取っていました。※2002年はパインブラフ都市圏のデータが提出されなかったためランキング入りせず。
危険な理由:暴力犯罪と財産犯罪が頻繁に発生しています。2023年のデータによると、リトルロックの暴力犯罪率は人口10万人あたり約1,560件で、全国平均を大きく上回っています。特に強盗発生率が高く、薬物取引やギャングの活動が犯罪の大きな要因です。殺人事件も少なくなく、こうした犯罪の多発が治安の悪化を引き起こしています。また、経済的な格差と貧困が犯罪増加の背景ともなっています。
7位 オハイオ州 クリーブランド
クリーブランド(Cleveland)は、オハイオ州の北東部、カヤホガカウンティに位置し、エリー湖沿いの主要都市です。若者にロックンロールを流行させた街で、エリー湖の湖畔にはロックの殿堂が建っています。
人口:37万2624人(2020年)。アジア系住民は約2.4%。主に中国系やインド系が多く、日本人は少数です。アジア系スーパーも存在します。
特徴:かつては製造業で繁栄しましたが、経済衰退に伴い犯罪が増加。特に、失業率の高さが犯罪増加の要因となっており、治安の悪化が進んでいます。2010年の『フォーブス』紙の調査では、クリーブランドは、米国で最も惨めな都市に挙げられています。
危険な理由:暴力犯罪や財産犯罪の発生率が非常に高いです。2023年のクリーブランドの暴力犯罪率は、人口10万人あたり約1,700件で、全国平均を大きく上回っています。また、2022年には約160件の殺人事件が報告され、強盗や加重暴行も多発しています。失業率の高さや薬物関連の犯罪も、治安悪化の要因となっています。
6位 ミズーリ州 カンザスシティ
カンザスシティ(Kansas City)は、ジャクソンカウンティに位置し、ミズーリ川の近くにあります。交通の要所であり、商業や文化の中心地です。
人口:50万8090人(2020年)。アジア系住民は約3%。主に中国系とインド系が多く、日本食材を扱うスーパーもいくつか存在しています。
特徴:カンザスシティはミズーリ州側とカンザス州側の2つあります。市の名前からカンザス州側がメインの都市であると思われがちですが、実際には人口の多さ、超高層ビルが立ち並ぶダウンタウンが発展しているのもミズーリ州側。そのためアメリカ国内で「カンザスシティ」と言った場合、ほとんどがミズーリ州側の”カンザスシティ”を指すことが多いです。
危険な理由:暴力犯罪と財産犯罪が頻発しているためです。2023年のカンザスシティの暴力犯罪率は、人口10万人あたり約1,590件と全国平均を大きく上回っており、特に殺人や強盗が多発しています。2022年には約170件の殺人事件が発生し、ギャング活動や薬物関連の犯罪が大きな要因とされています。経済格差と貧困が犯罪率の高さに影響を与えており、特に一部の地区で治安が悪化しています。警察と地域コミュニティが協力して治安改善に努めているものの、依然として犯罪率は高いままです。
5位 ミシガン州 デトロイト
デトロイト(Detroit)は、ウェインカウンティに位置する大都市で、アメリカ自動車産業の中心地、「自動車の街」とも呼ばれています。近年ではスタートアップ企業・次世代自動車(電気自動車、水素自動車など)産業・ロボット産業・医療産業などが盛んです。
人口: 63万9111人(2020年)。アジア系住民は約4%。中国系やインド系の住民が多いです。日本食材を扱うスーパーも数店あります。
特徴:かつては自動車産業の中心地としてフォード、GM、クライスラーなどの自動車メーカーが発展。20世紀初頭にはアメリカ経済の象徴でした。しかし産業の衰退に伴い、経済的に困難な状況に陥り、失業率の上昇や人口の流出が進みました。現在は、再開発や文化的な再興も進んでおり、音楽シーンやアートの中心地としても知られています。
危険な理由:非常に高い暴力犯罪率と経済的な問題に起因しています。2023年のデトロイトの暴力犯罪率は、人口10万人あたり2,007件で、全米平均の約4倍にも上ります。さらに、年間の殺人件数は2022年に約300件を記録しました。これらの犯罪は、特に貧困層が集中する地域で頻繁に発生しています。自動車産業の衰退に伴い、失業率が高まり、約30%の住民が貧困ライン以下で生活していることも、犯罪増加の一因とされています。経済的な困難や薬物取引が、治安の悪化に大きく影響を与えています。
4位 テネシー州 メンフィス
メンフィス(Memphis)は、シェルビーカウンティに位置する都市。ミシシッピ川沿いにあり、ブルースやロックンロールの発祥地として知られています。
人口:63万3104(2020年)。アジア系住民は約3%。インド系や中国系が中心です。日本食材を扱うスーパーもいくつかあります。
特徴:19世紀に綿花の集散地として発展する一方で”奴隷市”が開かれた歴史を持ちます。1968年4月4日に清掃労働者の待遇改善を求めるストライキの応援に訪れていたマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺されたのもこの街です。
危険な理由:全米でもトップクラスの暴力犯罪率です。FBIのデータによると、2023年のメンフィスの暴力犯罪率は人口10万人あたり1,901件で、全国平均を大きく上回っています。また、2022年には約290件の殺人事件が発生し、強盗や加重暴行も多発しています。ギャング活動や薬物取引が犯罪の主な要因であり、経済格差や貧困層の集中も治安の悪化を助長しています。
3位 メリーランド州 ボルチモア
ボルチモア(Baltimore)は、同州最大の都市で、どの郡にも属さない独立都市です。首都であるワシントンD.C.の外港としての機能を有する大西洋で極めて重要な港があります。
人口: 58万5708(2020年)。アジア系住民は約2.5%。日本食材を扱うスーパーやレストランも点在しています。日本人を含むアジア系のコミュニティが少しずつ増加しています。
特徴:アメリカで最も古い都市の1つであり、1729年に誕生しました。南北戦争の舞台にもなり、国歌や星条旗もこの地で生まれています。ボルチモアは海運業と製造業で繁栄した都市ですが、近年は経済的不平等と犯罪の増加が深刻な課題となっています。特にダウンタウンや特定の地区では、貧困が犯罪を助長しています。
危険な理由:1960年代から施設の老朽化と主産業の構造不況によって中心地から人口が流出し、スラム街が発展。治安の悪化が進んでいます。暴力犯罪、特に薬物取引や殺人事件が多発しており、全米でも殺人発生率が高い都市の一つです。警察と地域住民が協力して犯罪防止プログラムを推進していますが、状況は依然として厳しいままです。
2019年7月に当時大統領だったドナルド・トランプが、「(ボルチモアは)全米一危険で、どんな人間も住みたがらない」と発言したことが話題になりました。
2位 アラバマ州 バーミングハム
バーミングハム(Birmingham)は、ジェファーソンカウンティに属する州内最大の都市。アメリカ南部の鉄鋼産業で栄えた歴史を持つ都市です。アメリカ南東部における最も重要なビジネスセンターの一つであり、同時にアメリカ最大の銀行業の中心地のひとつとして発展しています。
人口:20万0733人(2020年)。アジア系住民は約1.5%。日本人は少数派ですが、アジア系スーパーもあり日本食材はある程度手に入ります。
特徴:人口の70%以上が黒人。かつてはアメリカで一番人種差別がひどい街とまで言われていました。1950年代から1960年代にかけて起こった黒人の公民権運動のひとつ”バーミングハム運動”が行われた地域。
危険な理由:かつて鉄鋼業でアメリカ南部を支えた都市で、経済発展の象徴的存在でしたが、産業の衰退に伴い、失業率や貧困率が上昇し、それに伴って治安も悪化しています。高い暴力犯罪率と、ギャングによる薬物取引が深刻な問題となっています。強盗や殺人が頻繁に発生しており、住民の安全が脅かされています。特に夜間の外出には注意が必要です。州内では高評価の学校もありますが、犯罪の影響を受けている地域では学校の安全性が課題となっており、教育環境が悪化している地区もあります。
1位 ミズーリ州 セントルイス
セントルイス(St. Louis)は、ミシシッピ川沿いにある歴史的な都市。アメリカ中西部の物流拠点として栄えてきました。20世紀初頭に最も栄えた街で、1904年には第3回夏季オリンピックが開催されました。
人口:30万1578人(2020年)。アジア系住民は約3%。少数ながら日本人コミュニティも存在します。アジア系スーパーもあり、日本食材は容易に入手可能です。
特徴:セントルイスはアメリカの歴史的な港湾都市であり、文化的にも豊かな街です。家賃・公共交通費・水道光熱費・食費などを含め、全米の大都市圏で最も物価が安く、生活しやすい都市の一つにも挙げられています。しかし、経済的な低迷と共に、特定の地域では貧困が犯罪を引き起こし、治安が大きな課題となっています。
危険な理由:1970年代以降に市街地老朽化と産業不振により治安・環境が悪化し、それ以降急激に人口が流出しています。全米で最も暴力犯罪率が高く、特に殺人や強盗が頻発しています。多くのギャング活動や薬物関連犯罪が治安を悪化させており、警察の取り組みが続いているものの、犯罪抑止には至っていません。西郊と南郊の高級住宅地を除いて犯罪発生率は高く、「全米の危険な都市」ランキングのワースト3常連。
2012年に発表されたFBIの統計では、1000人当たりの暴力犯罪発生率は18.6%で全米3位、殺人件数は113で第4位。2019年には10万人当たりの殺人率が64.54人と、全米で1位を記録しています。しかし、治安が悪い市北部のカウンティが比率を劇的に釣り上げているため、比較的安全といわれている西部や南部のカウンティはそこまで治安は悪くありません。それ故セントルイスでは以前から”西良し東悪し、南良し北悪し”といわれるほど、治安の度合いに明白な差があり、危険地域さえ踏み入らなければ比較的安全という二面性を持っています。
全米で治安の悪い大都市はこういったケースが多いですが、その顕著な例がセントルイスなのです。
まとめ
ご覧いただいたように、人口が多い大都市では、どうしても犯罪が増加する傾向があります。
しかし、この記事で紹介した都市が全て危険というわけではありません。ランクインしている都市でも、安全な地域や暮らしやすいエリアが存在します。たとえば、都市全体が犯罪率が高いと言われていても、特定のエリアだけが影響を受けていることが多く、すべての地区が危険なわけではありません。
大切なのは、一方向から物事を見るのではなく、複数の角度から情報を確認し、自分にとって適切な判断をすることです。
移住や滞在を考える際には、現地の治安データだけでなく、実際にその場所を訪れ、地域の雰囲気や生活環境を見極めることが重要です。治安の悪いとされる都市にも、発展している地域や家族向けの安全なコミュニティが多く存在しています。
また、日頃から防犯意識を持ち、最新の治安情報を追いかけることも非常に大切です。自分自身の安全を守るために、そして家族を守るために、普段から安全対策を意識し、注意深く行動することが安心して暮らすための第一歩。
アメリカでの生活をより安全で快適なものにしていただけるよう、様々な防犯対策を発信していきます!