アメリカで子育てをしていると、文化や価値観の違いに驚くことが多いですよね。
特に、中高生が巻き込まれやすい犯罪については、日本で青春時代を過ごした親御さんにとって想像しにくいことが多いかもしれません。しかし、ここはアメリカ。親が経験していないことを子どもたちは経験し、育っていくのです。
アメリカでは、SNSを通じたサイバーいじめやドラッグの誘い、人身売買など、思いもよらないリスクが身近にあります。こういった問題は「うちの子はアメリカ人じゃないし関係ない」とは言い切れません。実際、日本から来たばかりの中高生もターゲットになりうるため、親として知っておくことが大切です。
特に親世代の時にはなかったSNS関連の犯罪や事件はとても多く、さらに犯行も巧み。どれだけ法整備しようといたちごっこなので、必要なのは”自衛”するスキル。親としてどう子ども・犯罪に向き合うかということを考えなければなりません。。
この記事では、アメリカで中高生が遭いやすい犯罪や被害を分かりやすく紹介し、親ができる防止策もお伝えします。これをきっかけにお子さんと一緒に話し合い、「どうすれば危険を避けられるか」「怪しいと感じたらどう行動するか」などについて話し合う場をもち、防犯意識を高めてほしいと思います。
オンライン詐欺・サイバー犯罪
現代を生きる中高生はSNSやオンラインゲームを通じて多くの人とつながる機会が多く、その中には巧妙な詐欺やサイバー犯罪が潜んでいます。これは日本に住む子どもも例外ではありません。
FBIのインターネット犯罪苦情センターによると、2022年には19歳以下の若者が被害を受けた詐欺による損失は2億1,000万ドル(日本円で約315億円)を超えており、2021年から倍増しています。これは報告があったものだけでこの数字なので、未報告のものと合わせるとかなりの額になります。
よくある詐欺の手口
- 当選詐欺
SNSやメールで「当選おめでとうございます!」と突然メッセージが届き、賞品を受け取るために手数料や個人情報を要求されます。実際にはこうした”賞品”は存在せず、手数料の支払いを要求したり、個人情報を収集するための手口として使われています。 - ダイエットや健康商品詐欺
体型や健康に対する不安を利用し、偽の「奇跡のダイエット商品」などを宣伝する詐欺が、特にSNS上で多発しています。 - セクストーション(性的恐喝)
SNSを通じて交流し、中高生から性的な写真を手に入れた後、それを利用して脅迫する犯罪です。これにより、写真を送信した子どもが金銭を要求される被害が多いです。 - 奨学金、ローン、就職詐欺
偽の奨学金や仕事のオファーで個人情報を要求する手口で、若者がSSNなどの情報を渡した結果、身分詐称などの被害につながるケースが見られます。
当選詐欺や就職詐欺は親世代の在米日本人でも毎年詐欺の被害に遭っています。
さらに、友人やクラスメートを装って不適切なメッセージを送りつけたり、誹謗中傷する「サイバーいじめ」も深刻な問題です。多感な中高生は自分の情報を気軽に提供してしまうことが多く、詐欺被害やいじめのターゲットにされやすいので注意が必要です。
まずオンライン上での情報の取り扱いについて、お子さんと具体的に話し合うことが重要です。
たとえば「知らない人からのメッセージは無視する」「アカウントのパスワードは友人にも教えない」といった基本的なルールを確認しましょう。また、SNSやゲームに登録する際には、簡単に破られないパスワードを設定し、2段階認証を導入することも推奨されます。さらに、個人情報(住所、学校名、電話番号など)は、親しい友人以外に教えないよう指導します。※親しいからといって教えていい訳ではないことも伝えましょう。
お子さんがもし不審なメッセージや嫌がらせを受けた場合、すぐに親に相談できるような環境を整えておくことも大切です。安全なインターネットの使い方を教え、万が一トラブルがあってもすぐに助けられるよう、オープンなコミュニケーションを心がけましょう。
ドラッグやアルコールの勧誘
アメリカ国内の子どもの40%が12年生(高校3年生)までに違法薬物を経験しているとされています。
アメリカの中高生は、ドラッグやアルコールに触れる機会が日本と比べて多く、学校内や放課後のパーティーで友人や先輩から誘われることがあります。
2023年の全国薬物使用・健康調査(NSDUH)によると、12歳から20歳の約14.6%が過去1か月に飲酒しており、そのうち8.6%が”過剰飲酒”していることが分かります。また、マリファナの使用も広く報告されており、高校生の約27.9%が使用経験があると回答しています。
違法薬物に関してはオピオイドの誤用やフェンタニルなどの薬物摂取が増加傾向にあります。14歳から18歳の若者のオーバードーズによる死亡も増えており、偽造の鎮痛薬にフェンタニルが含まれるケースが多発しています。
2022年には14~18歳の若者のオーバードーズによる死亡が週平均22件発生し、その主因がフェンタニルであるとされています。そして死亡原因のほとんどが初めての使用や偶発的な使用が関係していると報告されています。本物の処方薬と偽造薬の見分けがつかず、危険な薬を摂取してしまうのです。
SNSでは「ストレス解消になる」「みんなやってる」といった言葉で勧誘され、危険な行為が普通だと錯覚させられるケースも少なくありません。そういった誘いは必ずしも強引なものではなく、特に仲のいい友達や信頼している相手からの誘いで断りにくい状況があることも理解しておかなければいけません。
「一度だけなら」とライトに応じがちですが、実際には薬物のオーバードーズによる死亡は”初めて使用した子ども”が多いことを親も子も理解しなければいけません。依存症に陥るリスクや、アルコールによる判断力の低下からトラブルに巻き込まれる危険性は高いです。特に10代は脳や体が発達段階にあるため、ドラッグやアルコールによる身体・精神的なダメージが大きいということも頭に入れておく必要があります。
ドラッグやアルコールの危険性を具体的に伝えることが大切です。
ドラッグやアルコールが脳や体に及ぼす影響について、お子さんにどれだけ説明できるでしょうか。また州によっては大麻が合法のところもあります。大麻についての正しい知識をもつことも大切です。
また、誘われたときの断り方も練習しておいて損はありません。「親が厳しくて無理」や「スポーツに悪影響があるから」といった、自然な断り文句をいくつか用意し、実際の会話の中でどう言うかをロールプレイするのもひとつの方法です。
さらにもしも危険な状況になった場合に、躊躇せず親に相談するよう促し、何でも話せる環境を整えておくと、お子さんがリスクを回避しやすくなります。また、ナロキソン(ナーカン)と呼ばれるオーバードーズの緊急処置薬を家と車内に常備するなどの対策もしておきましょう。
性的暴行やハラスメント
アメリカでは中高生が性的な暴行やハラスメントの被害に遭うケースが増えており、これは学校内やSNSを通じての接触がきっかけになることが多いです。
全米犯罪被害者化調査(NCVS)によれば、12歳から17歳の子どものうち、年間約6.6人に1人が性的暴行の被害を受けているとされています。そして中高生の約48%が学校内で何らかのハラスメントを経験しており、その多くが性的ハラスメントに該当します。
驚くべきことに、加害者が知人やクラスメート、さらには友人である場合も少なくありません。SNSでは、知り合いから送られてくるメッセージや写真がきっかけで、不快な要求や嫌がらせを受けることがあり、当事者は「親しい相手だから大丈夫」と油断しがちだというのです。
また、学校内でも物理的に距離の近い場所でハラスメントが行われることがあり、無理に近づかれたり、不要な身体接触が発生する場合があります。このような経験は中高生にとって大きな精神的ダメージとなり、心に深い傷を残す可能性も高いです。
異性との健全な接し方や不審な接触を見分ける方法について、具体的に教えましょう。
まず、お子さんに「どんな接触が嫌だと感じるか」「自分の意見や意思をしっかり伝える方法」を考えさせ、自分自身の気持ちに正直になることの大切さを伝えましょう。また、SNSでの交流についても、「知らない人からのメッセージに返信しない」「個人情報や写真を共有しない」など、基本的なルールを確認しておくと安心です。
さらに、もし不快な接触を受けた場合には、信頼できる大人(親、学校の先生、カウンセラーなど)に相談することが大切だと教え、話しやすい環境を整えると安心です。親としては「何があってもすぐ相談していいんだよ」と伝え、子どもが困難に直面したときに頼れる場所を確保することが、心の支えとなります。
カウンセラーと聞くと抵抗を感じる方もいると思いますが、アメリカでは「何かあってから利用する」ということではなく「何か起きる前に利用しておく」ことが推奨されています。日頃からカウンセラーと交流をもつことで”信頼できる大人”と関わりをもてるようにしておくことが大切です。
人身売買(トラフィッキング)
人身売買というと、行方不明になった人がどこかへ連れ去られるイメージが強いかもしれませんが、実際にはさまざまなカタチで存在します。
人身売買は”強制的に労働や性的サービスを提供させる目的で人を搾取する行為”であり、誘拐だけでなく、信頼関係の悪用や心理的な支配によっても行われます。日本人にとっては想像しにくいかもしれませんが、人身売買には以下のようなものがあります。
- 性的搾取
最も一般的で、未成年を含む若者が性的なサービスを強制されるものです。SNSで「高収入のアルバイト」や「モデル募集」として近づき、後で脅迫や暴力を用いて支配するケースです。 - 労働搾取
肉体労働や家庭内労働、レストランの従業員など、低賃金での過酷な労働を強制される場合があります。特に学生や移民がターゲットになることが多く、年齢に関わらず在米日本人も多く被害にあっています。 - 家庭内搾取や育児
若い女性が”住み込みベビーシッター”として雇われ、不当に低い賃金での長時間労働や拘束を強制されることもあります。また年の離れた兄弟の面倒を見させることや、身体の弱い親に代わって家事をさせることも多いです。(最近だと”ヤングケアラー”という言葉で聞き馴染みがあると思います。)
これらの手口は、被害者をコントロールするために心理的な支配や暴力を駆使することが多く、すぐに逃れられないよう仕組まれています。
アメリカ国内では、中高生が人身売買のターゲットになるケースが増加しています。
※上記の地図は、Polarisが運営する全米人身売買ホットラ インを通じて報告された人身売買事例に基づいたもの。事件の大半は報告されていないため、実際の被害ははるかに深刻である可能性が高い。
特に、SNSを通じた誘導や、身近な知人からの働きかけが多く、被害に遭う若者の大部分が未成年者であることが報告されています。2020年には、アメリカの人身売買ホットラインを通じて、2,600件以上の子どもが関連するケースが報告されました。
こうした誘いは特に新しい友人や親しくなったばかりの知人から来ることが多いため、ターゲットとなった若者は警戒心を持ちにくく、簡単に引き込まれてしまいます。しかし、実際には危険な組織に連れ込まれるケースもあり、安易に応じると深刻な被害に遭うリスクが高まります。
”知らない人や最近知り合った人からの突然の誘いには応じないこと”をしっかりと伝えることが大切です。
特に「簡単にお金を稼げる」「特別な体験ができる」といった魅力的なオファーには慎重になり、安易に応じないよう指導しましょう。さらに、こうした誘いを受けた場合や迷った場合には、必ず家族や信頼できる大人に相談することも合わせて伝えておくといいでしょう。
また、日本で生まれ育った方は、自身の持つ感覚が国際的に正しいものなのか疑問を持つことも大切です。アメリカでは、労働に対して必ず適切な対価を支払うことが労働基準の基本となっています。日本では「サービス精神」という考えが根強く、善意や奉仕の気持ちで無償労働を行うこともありますが、アメリカではそのような労働が搾取とみなされ、違法とされることもあります。
日本人の”サービス精神”や”奉仕”も大切な文化ですが、労働に対する適切な対価の支払いは人権と労働者保護の観点から重要であり、アメリカで生活するうえでの基本的な考え方として認識しておくとよいでしょう。
強盗や恐喝
アメリカでは、中高生が標的になる強盗や恐喝が特に都市部で問題視されています。
最新のデータによると、2021年から2024年にかけて、未成年者(特に12~17歳)が巻き込まれる強盗事件の数は増加傾向にあります。
特に、学校の帰り道やスクールバスの車内、休みの日に友だちと遊ぶ際の待ち合わせ場所などで、スマホや現金といった貴重品を狙われることが多いです。加害者は、スマホなどの携帯電子機器を持ち歩いている学生を見つけ、人気(ひとけ)の少ない場所や周囲が油断しているタイミングを狙って近づき、脅して奪う手口が一般的です。こうした事件はしばしば報道でも取り上げられます。
中高生はまだ防衛手段が限られているため、こうした状況においては特に無防備になりやすいと言えるでしょう。
強盗や恐喝の被害を防ぐために、人目のある安全なルートや待ち合わせ場所を利用するよう日頃からアドバイスしましょう。
人通りが多く明るい場所を選ぶのがポイントです。また、スマホや現金を見えるところに置かないように指導し、必要な金額だけを持ち歩くようにするとより安全です。
さらに、万が一危険を感じる場面に遭遇した場合には、迷わず大声を出して周囲の助けを求めるように教えておきましょう。「助けて」と声を上げたり、周囲の大人に助けを求める訓練をしておくと、いざというときの対応がスムーズになります。家族で緊急時の対応策を話し合うことで、子どもが危険を感じた際に冷静に行動できるよう支援していきましょう。
自殺
アメリカでは、ティーンエイジャーの自殺率が深刻な問題となっており、特に中高生の自殺が他の年齢層と比べて高い傾向にあります。
自殺手段として最も多いのは”銃の使用”ですが、”窒息(首つりや絞めなど)”や”中毒(薬物や毒物の過剰摂取)”も死因として多く見られます。特に窒息による自殺率は増加傾向にあり、10代の男性では銃の使用の次に多い手段となっています。
銃による自殺は近年深刻な問題となっています。2022年には、17歳までの子どもの2,526人が銃によって命を落とし、その多くが自殺によるものでした。現在、銃は子どもの死因として交通事故やがんを上回り、最大の要因となっています。特に15歳から17歳では、死亡原因の約3分の1が銃によるものです。
※アメリカは、同じく裕福なOECD諸国の中で子供と10代の銃器による死亡率が圧倒的に高い。(画像参照)
学業のプレッシャーや将来への不安、友人関係の悩みなどが大きな要因となっています。また、SNSやインターネットを通じたいじめや誹謗中傷も、自尊心を傷つけ、孤立感を深める一因のようです。さらに、家庭環境や家族関係の問題も影響し、誰にも悩みを打ち明けられず、孤独を感じてしまうことが少なくありません。
特に思春期は心の変化が激しいため、一時的に強い孤立感や絶望感にとらわれることがあり、周囲のサポートが不足すると、自ら命を絶つ選択を考えてしまうリスクが高まります。
日頃から子どもが悩みや不安を自由に話せるオープンな環境を作ることが最も重要です。
例えば、「どんなことでも話してもらっていいんだよ」と伝え、日常会話を通じて子どもの気持ちに寄り添うよう努めましょう。また、地域や学校のメンタルヘルス支援を事前に調べておき、必要があればカウンセリングやサポートサービスを受けられるように準備することも大切です。学校には相談員やカウンセラーがいる場合も多く、気軽にアクセスできる相談窓口を確保しておくと安心です。
さらに、メンタルヘルスに関する話題をタブー視せず、家族で定期的に話し合うことで、子どもが気持ちを話しやすい環境を整えるとともに、異変に早く気づける可能性も高まります。
日本では、メンタルヘルスの問題をオープンに話すことが難しい文化があり、精神科やカウンセリングを利用していることを隠さなければならないと感じる方もいるかもしれません。そのため、ストレスを抱え込んでしまいがちですが、アメリカでは気軽に専門的なサポートを受けることが社会的に受け入れられており、周囲からも理解が得やすい環境です。
カウンセリングやメンタルヘルス支援は自分の心を大切にする「自己ケア」の一環として広く認識されています。メンタルに問題を抱えることは誰にでもあることで、”ダメな人”や”弱い人”ではないと理解されているため、子どもから大人までが必要なサポートを受けることが推奨されています。心の健康も身体の健康と同じく大切です。
アメリカでは誰でも気軽にカウンセリングや専門家の助けを利用でき、周りの人々もそうした利用者を温かく受け入れてくれるはず。
特に異国で文化も言語も違う中生活することは誰にとっても大変です。これを見ている方でいま少しでも悩みを抱えていたり、辛い状況にある方は、サポートを受けることを恐れないでください。「お母さん(お父さん)が通っているなら私も」とお子さんも悩みを打ち明けやすくなりますよ。
自分の気持ちに正直に、ストレスや不安を感じたら遠慮せず専門家に相談してみましょう。
まとめ
アメリカで育つ子どもたちは、日本とは異なる環境で生活しており、犯罪やリスクも日本とは大きく異なります。
日本で生まれ育ち、日本で学生時代を過ごした親御さんにとっては、アメリカ特有の危険や対応が想像しにくいかもしれませんが、この記事を通じて子どもが直面しやすいリスクについて理解を深めていただければと思います。
SNSや友人関係を通じた犯罪の勧誘、いじめや暴力、そして精神的な負担など、どれも他人事ではありません。ぜひお子さんと一緒にこの記事の内容を話し合い、家族でどう対処したらいいかを共有してください。
親がオープンな姿勢で向き合うことで、お子さんも安心して相談できるはずです。
お子さんのアメリカでの生活が安心で充実したものとなるよう、引き続きサポートしていきましょう。